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腱鞘の解剖学(5)ー腱鞘炎のメカニズム

" 体のしくみ "

2017年3月30日

こんにちは!ハリ弟子です。

 

腱鞘炎につながる要素としてあげた以下の4つのうち、前回は「3.傷ができるスピードと傷が回復するスピードのバランス」を取り上げました。

 

1.もともとの腱の太さと線維鞘の内径のバランス

2.滑液の状態

3.傷ができるスピードと傷が回復するスピードのバランス

4.その人の構造・デザインに適した動かし方をしているか

 

腱はもともと治りにくい組織であること、なので損傷に比べて修復が勝るようにするためには、血行を良くすること、滑液の流動性を良くすることなどについて触れました。

 

今日は、4つめの「その人の構造・デザインに適した動かし方をしているか」について考えていきます。前回のポイントが修復の促進にあるとしたら、今回は損傷を最小限にすることにポイントをおいて考えていきます。

4.その人の構造・デザインに適した動かし方をしているか

突然ですが、人は道具を使うときどんなふうに使っているでしょう。

なにか目的があるから道具を使うわけですが、目的を果たせるかどうかは以下の3つにかかっています。構造と使い方と機能です。

use-structure-function

どんな道具にも特有の形(構造)があり、適切な使い方をすればうまく働いて(機能して)、望む結果を得させてくれます。

 

道具によって、使い方の部分で必要とされる技術レベルはさまざまです。

 

たとえばスマホのように、指先でタップするだけでなんでもこなしてくれるものもあります。初めてスマホを手にした人でも、スマホ歴十年の人でも同じように機能します。

 

反対に、大工さんが使うノミやカンナといった道具は、初心者と熟練の職人とではまるで違った結果になります。望む結果が得られるように機能させるには相応の技術(使い方)が必要です。

 

同じ道具を使ってより高度な結果を得ようとすると、技術レベルを上げる必要があります。たとえスマホといえども、高速フリック入力したければそれなりに慣れが必要ですし、大工さんのノミやカンナも同様ですね。

 

技術レベルが変わらないとしたら、逆に道具の方を改良する必要があります。スマホなら上位機種へ買い替えますし、大工さんの道具でも自分に使いやすいように手を入れたり、専門の職人さんに特注で作ってもらったりします。

 

これをヒトの身体にあてはめて考えてみます。

 

身体は替えがきかないので、構造に関してはほとんど変えることができません(もちろん、長い目で見れば少しずつ骨の形が変わるとか筋肉がつくとかありますし、前回、前々回の滑液の流動性はある意味構造の変化とも言えますが、まあ基本的には意図的に劇的に変えるのは不可能ということで)。

 

他方、道具と違って身体には自己修復力があります。

 

道具の場合は、構造的に無理のある使い方をすると壊れますが、身体の場合は、多少の無理はきいてしまいます。なので、それが無理のあるやり方だとなかなか気づきません。結果が望むものに近かったりすると、なおさら、それが無理だと思いたくない心理がはたらきます。

 

ここでまた、前回の損傷/修復バランスが出てきます。

 

無理を続けていると、いつかは損傷の方が勝ってケガをしてしまいます。逆に、その人の身体の構造やデザインに合ったやり方をしていれば、ケガをしにくくなります。

 

痛み、ひっかかり、違和感は、今のやり方になにかしらの無理があることを示すサインです。こうした身体の声に耳を傾けつつ、どうしたら無理なく望む結果が得られるか、根気よく探求していくのが大切です。

 

探求するにあたっては、自分の身体について正確な知識があると役に立つこともあります。

 

たとえば、関節や筋肉のつき方についてボディ・マッピングを学ぶのも1つですし、運動学やスポーツ科学、機能解剖学などの発見をひもとくのもヒントになります。

 

腱鞘炎との関連でいえば、指だけでなく、鎖骨や肩甲骨も含めた腕全体の関節の動き方や構造を見ると、意外なところにヒントがあるかも知れません(これについて書きたい気分もあるのですが、始めるとまた大変な量になるので機会をあらためたいと思います)。

 

最後にいくつか、、、

 

身体の構造について学ぶと、ケガをしにくい最適で唯一の方法が見つかるのではないかと期待したくなりますが、そういうものはありません。

 

腕の骨は片腕で32個あって、それぞれが複雑に関節を作っています。32個の骨の組み合わせによる動きの種類はそれこそ無限です。なので、最適な方法も無限の可能性があります。

 

そして、音楽家に要求される動きは非常に過酷なので、仮に最適なやり方をしていたとしても、ケガを避けられない場合もあります。ひとりひとりもって生まれた体は違いますので、みんなが最大限うまくやったとしても、個々人で限界は異なることは知っておいて良いと思います。しかし、だからこそ、自分の能力の最大限を引き出すには自分の構造を知っておくことが役に立つわけです。

 

と言いつつ、前言に反するようですが、運動学やスポーツ科学などの学問は、なぜその学問が必要になったのかそれぞれに目的があります。仮に「良い姿勢」とか「理想的な走り方」のようなことが書いてあったとしても、目的が違えば自分には当てはまらないかも知れません。この点で、知識の役立て方が重要になってきます。

 

大切なことは自分のやりたいことのためにどうしたら良いのか、自分に合ったやり方を見つけて使い方(技術)を発展させることです。そのために役に立ちそうなら学問の知識を使えば良いし、役に立たなければ(少なくともその時点では)それにこだわることなく使わないということで全然良いと思います。

 

関連ページ:

腱鞘の解剖学(4)ー腱鞘炎のメカニズム

腱鞘の解剖学(3)ー腱鞘炎のメカニズム

腱鞘の解剖学(2)ー線維鞘と滑液鞘

腱鞘の解剖学(1)

ばね指

腱鞘炎

この記事を書いた人

2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。

2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。

はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師

 

カテゴリー: 体のしくみ.
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