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アレクサンダー・テクニークの手順書

" アレクサンダー・テクニーク "

2018年10月21日

こんにちは!ハリ弟子です。

 

先日はアレクサンダーの著書”The Use of the Self”からアレクサンダー・テクニークを確立する過程で本人がまとめた手順を引用しました。

 

余力がなくて英文そのまま、和訳をつけていなかったので、今日は拙訳付きで考えてみます。

 

アレクサンダー・テクニークを自分でやってみたいと思う人には参考になるかも知れません。

 

とはいえ元の英文からしてすでに分かりにくいのと、独特の意味合いをもって使っている言葉も多いので、その点はご容赦ください。

 

点線の囲みは原文と訳、それにハリ弟子の説明とコメントが続きます。

 

Supposing that the “end” I decided to work for was to speak a certain sentence, I would start in the same way as before and

(ある文章を話すことを「結果」にすると決めたとします。私は以前と同じやり方でやり始めて、、)

アレクサンダー・テクニークを使ってやってみたいことを何か決めます。アレクサンダーはここでは「文章を話すこと」を例にしていますが、ここには楽器、歌、スポーツなど何にでも入れ替えることが可能です。そして、普段と同じようにそれをやろうとします。

 

(1) inhibit any immediate response to the stimulus to speak the sentence,

(その文章を話すという刺激に対して即座に起こる反応を抑制します。)

でもまだ話しません。実際に話すのはずっと後の(5)になってからです。実際には話しませんが、話そうとすることで自分に起こる反応をとりあえずやめます。普段と同じようにやろうとしているので、ここで起こった反応は習慣的なものです。アレクサンダーは習慣に身をまかせて話していたら声枯れしてしまったので、舞台で声枯れしないためには習慣的にやっていることをまずやめる必要がありました。普段は無意識にやってしまってるけれども、自分がやりたいことを実現するのには実は望ましくないことをやめることを抑制と呼んでいます。

 

(2) project in their sequence the directions for the primary control which I had reasoned out as being best for the purpose of bringing about the new and improved use of myself in speaking, and

プライマリー・コントロールのための指示を順番に発していきます。この指示は話すために新しく改善された自分の使い方をするのに最適なよく練られたものです。)

ここで専門用語がいくつか出てきます。”direction”と”primary control”です。それぞれについて、同じ本の別な箇所で説明されたところがあるので、その部分の原文と訳を一番下に載せておきます。”direction”の意味として2つのことを述べていますが、アレクサンダーは”psycho-physical unity”と言って精神と肉体を1つのものと考えていて、テクニークを精神的な側面と肉体的な側面の両面から説明することが多くありました。これにならうと”direction”について述べた2つの事柄は1つが精神的(今日的には脳神経科学的)、もう1つは肉体的(筋骨格系の働き)と解釈できるかも知れません。あくまでもハリ弟子の考えです。確証はありません。ここでは”direction”を「指示」と訳しておきました。

“primary control”は頭、首そして他の部分の使い方の関係性です。アレクサンダーは自分の姿を鏡に映しながらいろいろな体勢で声を出してみることで、発声に適した頭、首、体の他の部分の位置関係や動かし方があることに気づきました。無意識にやってしまうと習慣的な声枯れのリスクがある発声法になるので、試行錯誤の末に発見した最適な発声法ができるようにその具体的なやり方を頭の中で考えます。

ちなみにアレクサンダー・テクニークのレッスンではもっぱら頭、首そして他の部分の使い方の関係性について学びます。アレクサンダー本人は話すことを通じてそれを会得しましたが、レッスンでは生徒さんが解決したいと思っているあらゆる動きがその対象となります。楽器、歌、武道、スポーツなどなんでも題材にすることができます。また、人間関係などのメンタル的な話も、例えば嫌いな上司や家族のことを思い浮かべた時に体に表れる反応の方にアプローチすることでレッスンの題材にすることができます。

 

(3) continue to project these directions until I believed I was sufficiently au fait with them to employ them for the purpose of gaining my end and speaking the sentence.

(文章を話すという結果を得るための指示遂行に十分に精通していると自分が思うまでこれらの指示を出し続けます。)

(2)で出てきた声枯れしない最適な発声法の具体的なやり方をやれるという確信が持てるまで頭の中で考え続けます。今日的に言うと一種のイメージトレーニングみたいなものでしょうか。

 

At this moment — the moment that had always proved critical for me because it was then that I tended to revert to my wrong habitual use — I would change my usual procedure and

(この瞬間 ―私にとっていつもクリティカルな瞬間です、なぜならこの時に私は間違った習慣的な使い方に戻ってしまいがちなので― 私はいつもの手順を変えて、、)

アレクサンダー本人の場合、十分にイメトレしたはずなのにそれでも実際に話そうとした瞬間に以前の声枯れした良くない発声法に戻ってしまったようです。そのため、ここでもうひと手間かけます。

 

(4) while still continuing to project the directions for the new use I would stop and consciously reconsider my first decision, and ask myself “Shall I after all go on to gain the end I have decided upon and speak the sentence? Or shall I not? Or shall I go on to gain some other end altogether?” — and then and there make a fresh decision,

(新しい使い方のための指示を出し続けたままいったん止まって意識的に当初の決定を考え直し、そして自問します。「決めた結果を得るために続けていって文章を話すか?」「あるいはやめるか?」「あるいは全く違う他の結果を得るために続けようか?」―そしてその時そこで新しい決断を下します。)

新しいやり方を考え続けながら、そのまま話すか、やめるか、話す以外の別のことをやるか、決め直します。

 

(5) either not to gain my original end, in which case I would continue to project the directions for maintaining the new use and not go on to speak the sentence;

(当初の結果を得るのをやめる場合、私は新しい使い方を維持するための指示を出し続けながら、文章を話しません。)

or to change my end and do something different, say, lift my hand instead of speaking the sentence, in which case I would continue to project the directions for maintaining the new use to carry out this last decision and lift my hand;

(あるいは、何か違うこと例えば文章を話す代わりに手を上げるといったことに結果を変更します。この場合には、私は最後の決定を実行するべく新しい使い方を維持するための指示を出し続けて、手を上げます。)

or to go on after all and gain my original end, in which case I would continue to project the directions for maintaining the new use to speak the sentence.

(あるいは、結局当初の結果を得るように続けます。この場合には、私は文章を話すべく新しい使い方を維持するための指示を出し続けます。)

この辺りまでくると現代の認知行動療法的な雰囲気を帯びてきます。「話す」という考えが望ましくない反応を引き起こすきっかけになっていて、新しい良いやり方が理性的に分かっていてもどうしても古いやり方に戻ってしまうので、考えと行動をいったん切り離す必要がありました。そのため「話す」という考えに3つの異なる反応を用意しました。アレクサンダーはこの練習を繰り返すことでだんだんと古いやり方が出なくなったそうです。

レッスンではこれらのうち(2)と(3)+最適なやり方を見つけるための試行錯誤がメインになります(人により多少考えが違うかも知れませんが)。

 

というのは、アレクサンダーの場合は最適なやり方が既に分かっていて、それを実際にやるためのメンタル・プロセスがほとんどになっているのと、先生がいないので独力でやらざるを得ないという前提がありましたが、レッスンではガイド役としての先生がいるのと、最適なやり方そのものを見つけるプロセスも必要だからです。

 

(4)と(5)は相当に習慣が根強く、かつそれが生徒さんのやりたいことを邪魔しているような場合に必要になりますが、現在では様々な状況に合わせたいろいろな方法を使うので、ここに書かれたそのままの形でお目にかかることはほとんどないでしょう。

 

directionについて

When I employ the words “direction” and “directed” with “use” in such phrases as “direction of my use” and “I directed the use”, etc., I wish to indicate the process involved in projecting messages from the brain to the mechanisms and in conducting the energy necessary to the use of these mechanisms.

(「私の使い方のdirection」とか「私はその使い方をdirectした」などのように「使い方」という言葉とともに”direction”や”directed”という言葉を使う時は、次のようなことを示しています。1つは脳から器官へとメッセージを出すのに関わるプロセス、もう1つはこれらの器官を使うのに必要なエネルギーを伝えるのに関わるプロセスです。)

 

primary controlについて

relativity in the use of the head, neck, and other parts which proved to be a primary control of the general use of the self.

(頭、首そして他の部分の使い方の関係性が自分の使い方全般におけるプライマリー・コントロールであることが分かる)

この記事を書いた人

2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。

2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。

はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師

 

カテゴリー: アレクサンダー・テクニーク. タグ: .
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