トミー・トムソンのアレクサンダー・テクニーク | 演奏家と声楽家の故障と身体不調の悩みの相談を受付（腱鞘炎・ジストニア・顎関節症・喉…）

今、トミー・トムソン（Tommy Thompson）というアレクサンダー・テクニークの先生が来日しています。

トミーは米国でフランク・ピアス・ジョーンズ（Frank Pierce Jones）というアレクサンダー本人から直接学んだ人から教えを受けました。

このフランク・ピアスという人はアレクサンダー・テクニークの世界では広く尊敬されているようです。

どの世界にも見解の相違があって、本人にとって大切なことであればあるほどゆずれなくなります。

アレクサンダー・テクニーク界にもそうした食い違いがあり、相対する立場の本をいくつか読むと勉強になりますが、それに関わらずフランク・ピアスはあらゆる立場の人から好意的に書かれているのです。

で、トミーです。

トミーのレッスンはちょっと不思議な雰囲気になります。

たとえば楽器を演奏するところを見てもらうとします。

腕をどうするとか、ブレスをどうするとかトミーは言いません。

「楽器単独では音は出てこない・あなたがいて楽器を手に取ってはたらきかけて初めて音楽がつむぎ出されます・楽器もあなたもどちらか単独では音楽にはならないのだから、楽器の中にも自分自身を見ることができます・同様に出ている音の中にも自分自身がいます・あなたの音楽を聴いている聴衆の中にも自分自身がいます・音楽で満たされているこの部屋の空間全体にも自分自身がいるのです」

こういうことを言いながら、実に精妙に生徒の首の後ろや肩、肋骨や背中などに触れて動きに変化をもたらします。

不思議なことにこれでレッスンが成立してしまうのがトミーのワークなのです。

確かに楽器演奏という行為を哲学的に考えると、演奏する自分、楽器、音、音が伝わる空間、聴衆、どれを欠いても成立しません。

うまく言えないのですが、こちら弾く人、あちら弾かれる楽器、こちら演奏する人、あちら聴く人というような分断はあり得なくて、全部一緒かつ同時にお互いが存在して初めて成立するようなイベントの、その中にいる自分と考えると、聴衆が音楽を聴いて感動したり（あるいはがっかりしたり？）している体験の中にも自分がいるし、そういう音楽で満たされている空間にも自分がいるし、鳴っている音にも自分がいるし、楽器の中にも自分がいるという認知のしかたになってきます。

言ってる言葉を聞くと実にこうスピリチュアルな印象を禁じえませんが、実際のところはかなり細かく筋肉や骨格、神経系の働きまで考えながらやっているようです。

今回の来日では、この不思議なレッスンを理解するためのキーになりそうな言葉がトミー自身から聞かれました。

多重迷走神経です。

難しくなりそうなので次回に続きます。