東京都練馬区の音楽家のための鍼灸とアレクサンダー・テクニーク

整動鍼とアレクサンダー・テクニークの相乗効果(3)

" ディストニア "

2020年1月8日

今日はアンブシュアに不調のあるTuba奏者の方との施術&レッスンの実際のところを報告します。

 

件のTuba奏者は数年前からアンブシュアとタンギングにやりづらさを感じて一時まったく音が出なくなり、病院では口唇のフォーカル・ディストニアの疑いがあると言われました。

 

僕が整動鍼を取り入れてアレクサンダー・テクニークと合わせ始めた時からの患者さんです。

 

月に1回程度の頻度ですが良い方向に変化していて、聞いているまわりの人からもそう言われるそうです。

 

今は特に低音域が課題で直近の施術&レッスンではそこを念頭に進めました。

 

まずは前後比較と現状確認のために施術前に吹いてもらいます。

 

この時は、上のB♭ – F – 下のB♭のリップスラー。

 

上のB♭は問題ないですが、F – 下のB♭がうまく当たりません。

 

また音の変わり目で唇が振動しなくなる現象がありました。

 

金管楽器の演奏技術は重要度に応じて階層性があります。

 

AができていないとBができない、BができていないとCができても意味がない、といったことです。

 

例えば、息が流れていないと唇を振動させることができません。

 

唇の振動がないと音が鳴らないので、タンギングができても意味がありません。

 

演奏技術の階層性という考え方はバジルさんがもともと言っていたことで、こと金管楽器奏者を見る時は僕も大いに参考にしています。

 

現実の演奏動作は全部同時に起こるので、実は問題が息にあったとしてもタンギングに問題があるように感じてしまいます。

 

そんな時、階層のより基礎となる部分から再確認すると実際の問題がどこにあるか理解しやすく適切な対処ができるようになります。

 

で、この階層性のどこを整動鍼で担保してどこをアレクサンダーで対応するかはまだ試行錯誤しており、その都度組み合わせを変えています。

 

この患者さんはもともとタンギング不調が前面に出ていた経緯があるので、それと関係の深い首まわりの筋肉をゆるめるツボ、そして触診して呼吸と関係の深い背中のこりがあったのでそれに対応したツボを使いました。

 

寝た姿勢で頭を持ち上げてもらい首まわりの筋肉の状態をチェックしてから手と足のツボに鍼(整動鍼では筋肉名まで特定されツボもミリ単位で定義されていますが知的財産の関係もありぼかします)。

 

再度頭を持ち上げてもらうと格段に楽に上がるようになっていて患者さんからも思わず「おおー!」と声が上がります。

 

タンギングで使う舌は下顎骨の中に浮いています。

 

浮かせているのは筋肉の張力バランスです。

 

なので首まわりの筋肉の状態が変われば舌の力みや動かしやすさも変わる、そのように意図したツボです。

 

次に呼吸と関係が深い背中のこりをゆるめます。

 

そのこりに対応する腕と脚のツボに鍼をして、もう一度触診してゆるんだことを確認。

 

呼吸に関しては、ブレスを深く取る管楽器奏者には腹筋をゆるめるのが効果的なこともあります。

 

実は首周りの筋肉に効くツボは腹筋をゆるめる作用もあり、合わせれば胴体の前後で筋伸縮の調節可能性を高めることが可能です。

 

ここまで整動鍼の施術をして、もう一度楽器を吹いてもらいます。

 

目論見どおり息の流れは良くなったようで、上のB♭ – F – 下のB♭の音の変わり目で唇の振動が切れることはなくなりました。

 

でも依然として下の音に行くに連れて当たり切らなかったり、当てにくそうにしていました。

 

ここからアレクサンダーのレッスンに入ります。

 

整動鍼で「動ける」ようになったところで「どう動くか」の探求です。

 

気づいたのは音が下に移る際に顔を下に向けようとする動作でした。

 

そのため下唇とマウスピースの密着がはずれて息が漏れやすく、また唇の振動を失いやすくなっているように見えました。

 

この動きを何のためにやっているのか?

 

そういえば上唇と下唇がマウスピースと接触する割合が上唇の方が多いなと思い、息を下向きに出したいのでは、と仮説を立てました。

 

そこでマウスピースのカップの中で息を上向きに当てるのと下向きに当てるので吹きやすさを比べてもらったところ、下向きに当てた方が吹きやすいことが分かりました。

 

今までカップの中での息を当てる方向を意識したことはなかったそうなので、今度は意図的に下向きに当て続けながら上のB♭ – F – 下のB♭のリップスラーをやってもらいます。

 

それにより音色は変わりましたが、しかし音が下に移る際に顔を下に向けようとする動作はまだ残っていて、それゆえに下唇とマウスピースの密着がはずれそうになる現象も続いていました。

 

さらに何回か見ていて、これは低音に行くに連れてマウスピースを上にずらしたいのではないかと気づきました。

 

Tubaの場合楽器が大きくて操作しづらいので、顔を下にずらすことで相対的にマウスピースが上にずれます。

 

その動きが顔を下に向けようとする動作につながっているのではないか。

 

金管楽器奏法のメカニズムにアンブシュア・モーションというものがあり、人それぞれ固有の軌道があることが分かっています。

 

詳しくはバジルさんのブログで紹介されています(>>金管楽器のアンブシュア動作)。

 

もしこの方のアンブシュア・モーションが低音域でマウスピースと唇を引っ張り上げ、高音域で引っ張り下げるのだとするとアンブシュア・タイプは中高位置です。

 

アンブシュア・タイプについても詳しくはバジルさんのブログにゆずるとして(>>金管楽器の3つの基本アンブシュアタイプ)、マウスピースの位置が唇に対して中高位置ということは、上唇の方がマウスピースと接触する割合が多いという観察と合致します。

 

上唇の方が多いということは息は下向きに出ますから、さっきの息の向きを変えて吹きやすさを比べてもらった時の結果とも整合します。

 

ということは、この方が無意識にやろうとしている動作はすべて正解だったのかも知れません。

 

足りないのはマウスピースと唇の密着を維持したままそれをやることです。

 

今度は吹くのに合わせて僕が楽器を持って動かしてみました。

 

上のB♭ – F – 下のB♭のリップスラーをマウスピースと唇の密着を維持したまま、低音に行くに連れてマウスピースが上にずれるよう楽器ごと動きをガイドします。

 

こちらの動画の4分30秒あたりからバジルさんがやってるようなことです。

 

初めて下のB♭がスコンとはまりました。

 

僕も予想外なほど見事に鳴ったので、ご本人も「え?」という感じになってしまいました。

 

ちなみにこの時の施術&レッスンは4回目です。

 

こういうことに取り組んだことのある人でないと、4回という数字、スコンと音がはまったことや一貫性ある奏法の輪郭が見えてきたことのすごさは伝わりにくいかも知れません。

 

整動鍼による「動ける」状態への回復と、アレクサンダーによる「どう動くか」の観察・実験・検証はとても相性が良いと感じた一例でした。

この記事を書いた人

2016年、東京練馬区の江古田にてbodytune鍼灸マッサージ院を開業。

鍼灸師、マッサージ師。アレクサンダー・テクニーク教師。

 

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