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bodytune(ボディチューン)音楽家のための鍼灸

ディストニアの研究論文

" 体のしくみ "

2018年5月22日

こんにちは!ハリ弟子です。

 

ディストニアのピアニストとそうでないピアニストで、脳の運動皮質の働きを比較した研究がありましたのでご紹介します。

 

Aberrant cortical excitability reflects the loss of hand dexterity in musician’s dystonia

 

『異常な皮質興奮性が音楽家のディストニアにおける手指巧緻性喪失に反映』というタイトルで、Journal of Physiology掲載です。

 

従来より、ディストニアと大脳の運動皮質の作用との関係が言われてきましたが、立証という意味では決め手に欠けていました。

 

この研究では、短潜時皮質内抑制(SICI)と皮質内促通(ICF)の表れ方が、ディストニアのピアニストとそうでないピアニストで異なることを明らかにしています。

 

運動皮質のニューロンが発火すると、命令が筋肉に伝わって実際の動作が起こります。

 

むやみやたらと発火すると動作もむやみやたらになるので、どのニューロンを発火させてどのニューロンを静かにさせるか決めている仕組みがあります。

 

それが介在ニューロンと呼ばれるもので、ニューロンとニューロンの間をつないで、情報伝達する役割があります。

 

介在ニューロンにもいくつか種類があって、スイッチ・オフの情報を伝達するものと、スイッチ・オンの情報を伝達するものがあります。

 

そして、短潜時皮質内抑制の時には、スイッチ・オフの情報を伝達する介在ニューロンが働き、皮質内促通の時には、スイッチ・オンの情報を伝達する介在ニューロンが働くと考えられています。

 

この両方があることで、複雑で細かい動きでも、整理された命令を筋肉に伝えることができるわけです。

 

実際にはこんなに単純ではないし、分からないことがまだまだ多いですが、思い切って単純化するとこのような仕組みです。

さて、研究の結果はどうだったのでしょうか?

 

短潜時皮質内抑制の減少と皮質内促通の亢進が、打鍵のタイミングの正確さと素早い指の曲げ伸ばしを阻害することが示唆されました。

 

簡単に言うと、不必要な筋肉までオンになりやすくなっているということです。

 

それが、大脳の運動皮質のレベルで起こっていることが明らかになりました。

 

仮にこれがディストニアの正体だとすると、脳の中で起こっていることなので、「思う」ことをしたら既に発動しているというなかなかやっかいな病態であることは間違いありません。

 

鍼灸との関連で言えば、近年、脳科学との共同研究が多くなってきて、鍼灸治療で脳内の抑制のメカニズムがよりよく働くようになるとの証拠が、少しですが出始めています。

 

ディストニアに鍼灸が奏功する場合というのは、体表からの感覚刺激が何らかの仕組みで神経系の抑制に寄与しているのではないかと考えられます。

 

また、アレクサンダー・テクニークでは、癖に対する「抑制」という思考法を、レッスンを通じて、自ら体得していきます。

 

ディストニアをアレクサンダー・テクニークで克服した方がよくおっしゃるのは、ディストニアは治る治らないといった問題ではなく、ディストニア的な動きを選択するかどうかだということです。

 

「治った」後でも、意図すればディストニア的な動きを起こすことができると言います。

 

「演奏」という概念とディストニア的な動きが強固に結びついていて、かつそれ以外の選択ができなくなっているのがディストニアという状態なので、それ以外の動きを思考のレベルで選択できるようにするのが、アレクサンダー・テクニークのレッスンになります。

 

なかなか、これをすればよいという方法は確立されていませんが、メカニズムが明らかになることで、より効果的な方法へと洗練させていければと思います。

この記事を書いた人

2016年、東京都練馬区の江古田にて音楽家専門の鍼灸治療院を始める。

2021年、東京都品川区の鍼灸院「はりきゅうルーム カポス」に移籍。音楽家専門の鍼灸を開拓し続ける。

はり師|きゅう師|アレクサンダー・テクニーク教師

 

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